Thai NS SolutionsのITコラム

タイ現地ERP導入プロジェクトの実態①
ユーザ企業の観点から

今回から数回にわたり、タイ現地ならではの事情を踏まえたERP導入プロジェクトの実態を、コラムとしてご紹介していきたいと思います。私はこれまで日本からの出張ベースを含め、計8年ほど日系タイ現地法人の複数のERP導入プロジェクトに携わってきました。
本コラムが、多少なりとも皆様のご参考になりましたら幸いです。

今回は、ERPを実際に業務で利用するユーザ企業の観点から、直面する課題などについて述べてみます。
日系企業のタイ現地法人では一般的に、IT専任者、特にインフラ以外の業務アプリケーションまわりの社内担当者がいることは非常にまれであり、ERP導入プロジェクトが立ち上がった場合の取りまとめは(日本人またはタイ人の)管理部門マネージャーが担当されることがほとんどです。したがってITプロジェクト経験の不足から、ユーザ側としてプロジェクトを引っ張る推進力・決定力に欠ける傾向が見られます。

また、文化的な違いかどうかは分かりませんが、日本と比較して各スタッフの分業が徹底した部門縦割りスタイルが定着しており、自分の担当範囲を超えて隣の部門の業務を理解しよう、調整しようというスタッフが少ないように見受けられます。したがってERPに求める要件が各部門の個別最適なものの寄せ集めになってしまい、業務とシステムの統合というERPパッケージ本来のメリットを、(カスタマイズを抑えた)適切なコストで実現するための取りまとめには、さらなる困難が伴います。

日本人のマネージャーの方は、日々の実業務の詳細はタイ人スタッフに任せているということが多く、要件定義の中で、「今までそんなことをしていたのか」「何の目的でそんなことをしているのか」「わざわざシステム化する必要があるのか」といった驚きや困惑を見せる方も少なくありません。そこで自ら課題を掘り下げようとしても、言語の壁もありシステムについても精通していない中で、議論をリードし取りまとめることは、かなりハードルが高いというのが現実です。

一方で、日本人の方が自らシステム要件を定義し、タイ人スタッフにはその通り使っていただくだけ、という形式のプロジェクトも存在します。しかしそのようにして構築されたシステムは、UAT(ユーザ受入テスト)から本稼働に至る段階で、機能要件が実運用をカバーしていないことが露呈し、タイ人スタッフの意見を取り入れた形に再改修するか、機能が不十分なまま運用することを強いられるケースが見受けられます。

したがって、タイ現地法人におけるERPシステム導入のポイントは、大きく以下の二つと考えます。

  1. タイ人が主導して要件を定義するプロジェクトの場合、予算を度外視した個別部門ごとの要件が積み上がりコストオーバーに陥りやすい。日本人がシステム導入の目的を明確にし、必須でない要件は思い切って切り捨てる判断を行う(その判断を行うためのコミュニケーション力が必須となる)。
  2. 日本人が主導して要件を定義するプロジェクトの場合、実業務を十分にカバーしないシステム設計になりがち。検討内容は都度タイ人業務担当へフィードバックし、意見を求めながら進める(こちらもコミュニケーション力が必須となる)。

しかし一口にコミュニケーションといっても、言語、文化、前提スキルなど複数の要因が絡んでおり、「タイにおけるコミュニケーション力」というのもまた興味深いテーマです。こちらついても、今後のコラムでご紹介できればと考えています。

01-02-2021