皆さまご存じの通り、Microsoft社のERP製品「Dynamics」シリーズは現在、「Dynamics 365」に名称を刷新し、定期的な新バージョンリリースにより機能面でもアップデートを続けています。一方で「Dynamics AX」「Dynamics NAV」といった旧Dynamics製品については、Microsoft社のソフトウェア保守が順次終了(EOSL: End of Support Lifecycle)しつつあり、ERPのリプレースを迫られているユーザ企業様も多くいらっしゃるものと思います。
本コラムでは、弊社としてこれまで数多くDynamics製品のバージョンアップ案件を実行してきた経験から、ユーザ企業様視点での検討ポイント、および弊社(導入支援ベンダー)視点での勘所をご紹介させていただきます。
まず、旧Dynamic製品でEOSLを迎えていないバージョンは以下の4バージョンのみとなります(2024年時点)。
製品名 | Extended Support End Date |
Dynamics NAV 2015 | Jan 14, 2025 |
Dynamics NAV 2016 | Apr 14, 2026 |
Dynamics NAV 2017 | Jan 11, 2027 |
Dynamics NAV 2018 | Jan 11, 2028 |
※Dynamics AXは全バージョンが既にEOSL済み
つまり既にほとんどのDynamics製品がEOSLとなっていますが、実際には諸々の事情により、保守切れした製品バージョンを現在も使い続けているユーザ企業様はまだ多くいらっしゃるものと思います。弊社もこういった企業様から、「遅蒔きバージョンアップ」のご相談を多々頂いてきました。
では、保守切れの製品バージョンを使い続けることには、そもそもどんなリスクがあるのでしょうか。以下にいくつか代表的なポイントを列挙します。
まず第一に挙げられるのはセキュリティリスクです。EOSL後、Microsoft社からのセキュリティアップデートパッチは提供されなくなるため、仮に製品に深刻なセキュリティホールが見つかった場合も対処が不可能となります。
したがってセキュリティアタックに対する脅威が高まり、予期せぬタイミングでシステムが利用不可能になるリスクがあります。
Dynamicsの各製品バージョンは基本的に、その保守期間内に市場に提供されているサーバOS (Windows Server) やデータベース (SQL Server)のバージョンに互換性を持つよう設計されています。
仮に10年以上前に購入したDynamicsサーバが物理的にクラッシュし復旧不可能となった場合、新たに購入できるサーバは古いOSやデータベースに互換性が無い為、バックアップデータがあったとしてもそれを復旧するサーバ環境を構築することができない恐れがあります。
また上記1のセキュリティリスクが現実化した際にも、システムをリカバリする術が無いということが考えられます。
Dynamics製品は新バージョン毎に機能やシステムアーキテクチャに変更を重ねているため、同一製品で旧バージョンから新バージョンへバージョンアップを行う場合、バージョンの乖離度合いは導入構築コストに大きく影響します。
バージョンアップの差異が1バージョンであれば、自動コンバージョンツールでデータやソースコードを一括変換対応できる部分が大きい一方、保守切れバージョンを最新バージョンへアップする場合、例えばソースコードの自動コンバージョンでエラーがあまりにも多く出るため、ツールを使わずすべて手作業でソースコードを書き換える、といった作業が発生し、開発工数が大きく膨らみます。
したがって何年もバージョンアップを先延ばしにした結果、余計にコストが膨らみ予算確保に苦慮される、といった企業様もいらっしゃいます。
以上、保守切れの製品バージョンを利用し続けることのリスクをご紹介いたしましたが、端的にこれを一言で表すならば「事業継続リスク」そのものであると考えます。
日々正常に運用できている状態では強く意識することは難しいですが、ERPは事業の基幹をなすシステムであり、これがクラッシュした場合にリカバリができないリスクを抱えたまま、バージョンアップのためのコストもどんどん膨らんでいるという状態は、思いのほか深刻であると考えます。
次回は、Dynamics製品を後継製品のDynamics 365にバージョンアップ(アップグレード)する場合のメリットや勘所をご紹介いたします。
10-09-204