前回は、Dynamics 365製品に共通する代表的な特徴、そのメリットや考慮ポイントについて述べさせていただきました。今回は、Dynamics 365に関して当社がお受けする「良くあるご質問」と、タイ現地の日系企業様の現状に即したERPシステム刷新の在り方について述べさせていただきます。
10年ほど前まで、タイは首都バンコクでも「雨が降るとインターネットと電話が繋がらなくなる」と普通に言われていた記憶があります。その当時はご提案を差し上げる当社の立場から見ても確かに、オンプレミスERPをご希望される企業様が多数派であったと思います。また数年前にDynamics 365がリリースされた後もしばらくの間は、タイ国内ではオンプレミス版のみしかMicrosoftから提供されていませんでした。
しかしタイ国内市場へのオンクラウド版リリースと時をほぼ同じくして、ユーザ企業様の選択も自然にオンクラウド主体へと移行していった感があります。おそらくMicrosoft側もタイ国内のインターネット環境の改善状況など、クラウド化へ向かう「市場の潮目」を見てのリリースであったのではと思います。
実際のところ、直近で当社が導入支援させていただいているプロジェクトも7割以上がオンクラウド版Dynamics 365となっています。
これまで旧Dynamics製品(オンプレミス)を利用されてきた企業様、特に社内IT部門を抱えていらっしゃる企業様は、オンプレミスシステムを継続利用したいとの意向が強い傾向にあります。自社でオンプレミスサーバを管理でき、ライセンスも買い切りの初期投資で済ませることができる(※但し別途ソフトウェア保守料は毎年発生)ため、シンプルな選択という言い方ができるかもしれません。
しかし特にタイにおいては、IT人材の安定的な確保はどのユーザ企業様も苦慮されているところであり、サーバ運用管理を引き続き属人化してしまうことが事業継続リスクとならないかどうか、一度再検討してみる必要があるのではないでしょうか。また、そもそもERPで業務プロセスをシステム化する目的のひとつは属人化排除であり、クラウド化によってアプリケーションだけでなくシステム基盤管理も属人化を排除できるという点も、申し添えたいと思います。
Dynamics 365はオンプレミスもオンクラウドも共通の開発言語を用いてカスタマイズを行う仕組みのため、オンクラウド版に限ってカスタマイズに制約が発生することは基本的にありません。当社の過去のバージョンアッププロジェクトにおいても、旧Dynamicsのカスタマイズは同等の仕様でDynamics 365へ移行を行っています。
ただし外部システムとのデータインターフェースにおいては、オンクラウド版Dynamics 365に対して外部からデータベーステーブルを直接参照したり、ローカルサーバのファイルを参照しDynamics 365へデータインポートしたりするプログラム機能が実現できないため、Web API、Power BI、クラウドストレージ等を用いた新たなインターフェース方式の検討が必要となります。
以上、Dynamics 365製品に関する良くあるご質問をご紹介させていただきました。必ずしも常にオンクラウド版を推奨するものではなく、各ユーザ企業様のご事情により、オンプレミス版が最適解となることも十分あり得るものと考えていますが、特にまだタイでは普及が始まったばかりのクラウドERPについて、皆様のご理解を深めていただくことを意図として記載をさせていただきました。
04-10-2024