前回は、保守切れのDynamics製品を使い続けることのリスクについて述べさせていただきました。今回は、Dynamics製品を後継製品のDynamics 365にバージョンアップ(アップグレード)する場合のメリットや勘所をご紹介いたします。
まず、旧Dynamics製品に対応する、後継のDynamics 365製品名を以下に記載します。
旧製品名 | 後継製品名 |
Dynamics AX | Dynamics 365 Finance & Operations |
Dynamics NAV | Dynamics 365 Business Central |
それでは、ブランドを刷新したDynamics 365製品に共通する特徴はどのような点でしょうか。以下にいくつか代表的なポイントを列挙します。
Dynamics 365の最大の特徴は、従来のオンプレミス形式に加え、オンクラウド(SaaS)形式でのシステム利用が可能となったことです。これまでDynamics AX/NAVのシステム基盤はオンプレミス形式のみで提供されており、ユーザ企業が自社で(またはデータセンター等を別途契約し)サーバを構築運用する必要がありましたが、Dynamics 365ではMicrosoft社がAzureデータセンターを基盤としたSaaSとしても機能を提供しているため、ユーザ企業はSaaSを選択することで自社のサーバ構築運用コストを排除することが可能になります。
従来のDynamics製品は、各バージョンの製品ライフサイクル(製品リリースからEOSLを迎えるまでの期間)は通常5年以上設定されていました。一方、Dynamics 365はオンプレミス版の製品ライフサイクルが大幅に短期化されており、Finance & Operationsの場合はバージョンリリース後平均8カ月、Business Centralの場合は1年半で保守切れとなります。
つまり、前回のコラムで述べた保守切れに伴うリスクを回避するためには、これまでより短い半年~1年ごとのサイクルでのバージョンアップ対応が必要になります。ただしこれも前回のコラムで述べた通り、バージョンの乖離が少なければバージョンアップに要するコストは抑えることができるため、毎年のシステム運用保守予算の中にバージョンアップ作業を組み入れ、バージョンの乖離を作らないことが重要と考えます。
上記2のオンプレミス版に対し、オンクラウド版はMicrosoft側でサーバ環境の運用管理を行っているため、一定のサイクルで常に最新バージョンが強制適用されます。これにより保守切れのリスクは発生しない代わりに、定常的にバージョンアップ前の事前検証がユーザ側で必要となります。
具体的な段取りとしては、まず新バージョンのサンドボックス環境が各ユーザ企業へ提供され、ユーザ側で自社環境のカスタマイズ等に不具合が発生しないかどうかの検証を行います(カスタマイズに不具合が発生した場合はプログラムコードを修正)。検証・修正が完了したのち、本番環境への具体的な適用日時をMicrosoftへ指定し、バージョンアップを適用します。
なおバージョンアップの適用サイクルは2024年9月現在、Finance & Operationは年4回(うち2回スキップ可能)、Business Centralは年2回となっています。
したがってオンクラウド版においては、毎年のシステム運用保守予算の中に、最低2回のバージョンアップ事前検証コストを確保することが必須となっています。
現在のところオンプレミス/オンクラウドを選択可能なDynamics 365ですが、世界的なITのクラウド化の流れに従い、Microsoft社もオンクラウド版Dynamics 365の強化を今後ますます加速していくものと思われます。
その代表的なものがPower Platformと呼ばれる周辺クラウドサービスであり、Dynamics 365やOffice 365の機能を拡張するこれらのサービスを併せて無償で活用することが可能です(一部、別途有償ライセンスが必要な機能有り)。以下に簡単にサービス概要を列挙します。
サービス名 | 概要 |
Power Automate | ワークフロー、RPA構築プラットフォーム |
Power BI | BI(Business Intelligence)レポート作成ツール |
Power Apps | ローコードアプリケーション開発ツール |
CoPilot | 生成AIによるユーザ支援ツール(操作支援、データ分析支援等) |
以上、Dynamics 365製品に共通する代表的な特徴をご紹介する中で、メリットや考慮ポイントを挙げさせていただきました。
次回は、Dynamics 365に関して当社がお受けする「良くあるご質問」を通して、タイ現地の日系企業様の現状に即したERPシステム刷新の在り方について、考えてみたいと思います。
04-10-2024