Thai NS SolutionsのITコラム

タイ現地ERP導入プロジェクトの実態④
タイローカルITベンダーと当社の違い

前回のコラムでは、お客様内部のコミュニケーションの橋渡しを含めた、当社のプロジェクト推進体制をご紹介しました。

さらに当社ではコミュニケーション面以外にも、日系ITベンダーとしてお客様の期待に応えるべく、プロジェクトのリスクを最小化し確実にシステムを本稼働に導くため、NSSOLグループ標準のプロジェクト管理メソッドを導入しています。また、ご契約についても日本のITプロジェクトで一般的に用いられるものと同様の形態で、フェーズごとにお客様に合意・検収をいただきながら進めていきます。

一方でタイ現地のローカルITベンダーの場合、日本のお客様にとっては当たり前であるはずの期待や常識が通用せず、プロジェクト開始以降に大きな混乱が発生するケースが見受けられます。これまで当社では、そういったケースに陥られたお客様から数多くご相談をいただき、プロジェクト立て直し・仕切り直しのお手伝いをさせていただいてきました。

今回はそういった経験に基づいて、タイローカルITベンダーとプロジェクトを実行する上での注意点、当社をはじめとした日系ITベンダーとの違いをご紹介したいと思います。

 

① 責任範囲の違い

日本のITプロジェクトであれば、ベンダー側が「システムの本番稼働まで責任を持ってサポート」する姿勢を持っているのは、至極当たり前のことと考えます(お客様側のIT部門の体制・力量が十分であり、お客様側主体でプロジェクトをリードできる場合を除きます)。

一方でタイローカルITベンダーが考える責任範囲は、端的に言うと「システムをセットアップしてユーザへ引き渡すまで」となります。したがって、引き渡されたERPシステムに適切なマスタを登録し、実業務で運用ができるかどうかを検証・判断する主体と責任は、ユーザ側にあります。とはいえユーザ部門に十分なIT導入の知見とリーダーシップが無い場合、ベンダーのサポート無しに主体的にシステムを稼働に持っていくことは非常にハードルが高く、この段階でプロジェクトが頓挫した経験を持つお客様を、これまで数多く目にして来ました。

さらに費用支払の面でも、ベンダーの作業着手時に前金で50%、中間時点で30%、作業完了時に残りの20%を支払う条件になっていることが多く、上記の例のようにシステム引き渡し後にユーザ検証でプロジェクトが頓挫した場合、仮に支払いについてトラブルに発展した際も、その時点で80%の支払いは既になされているため、お客様側にとってリスク回避が難しい不利な条件となっています。

 

② エンジニアの目的意識の違い

タイにおいてITエンジニアという職種の価値は、日本と比較して相対的に高い(給与面、社会的プレゼンス面など)と感じることがあります。これは裏を返せば、技術面だけに特化すれば自分の立ち位置は保障される、という少し視野の狭い考え方につながっているのでは、と推察します。一方で日本のITエンジニアは技術面に加え、結果としてお客様のビジネスにどのように寄与するかといった、技術面以外の付加価値を求められる場面がより多いように思われます。

タイローカルITベンダーが「システムをセットアップしてユーザへ引き渡すまで」を責任範囲と考えるのはこのひとつの例であり、ERPプロジェクトであればERPのパラメータ設定に必要最低限の情報をユーザ部門から収集してセットアップし、業務の流れを考慮しない、機能説明中心のユーザトレーニングをすることで技術面での役割は終わったと考えてしまいます。「業務で使えるかどうかはユーザ側で確認してください、システム改修が必要な場合は言ってくれれば都度対応します」、というスタンスです。したがって繰り返しになりますが、ユーザ部門に十分なIT導入の知見とリーダーシップが必須と考えます。

もちろん、すべてのローカルベンダーが上記のような対応しかできないわけではありませんが、中小規模のベンダーが格安のシステム構築を提示している場合、こういったケースに陥る可能性が極めて高いため、そのリスクを十分に理解した上でのご判断をいただければと思います。

以上4回にわたり、タイ現地ERP導入プロジェクトの実態についてご紹介させていただきました、少しでも皆様のご参考になりましたら幸いです。

15-06-2023