Thai NS SolutionsのITコラム

タイ現地ERP導入プロジェクトの実態②
タイにおけるコミュニケーション力

今回は、前回のコラムで触れたコミュニケーションについて、もう少し掘り下げてみたいと思います。ERP導入プロジェクトでは、トップダウンで要件を決めるにしても、ボトムアップで要件を吸い上げるにしても、最終的には日本人とタイ人の間のすり合わせがなければシステムは正常に稼働しない、というのが前回のまとめでした。しかし実際のところ、日本人とタイ人が同じ方向をむいて一体となってプロジェクト推進をされているユーザ企業様は、非常に稀です(そしてもちろん、それを橋渡しするのが当社のようなITベンダーの役割であり、価値を発揮できるところであると自負しています)。そこで、タイのプロジェクトで良くある、社内コミュニケーションがスムーズに行っていない代表例を以下に2点ご紹介します。

NG例①:コミュニケーションが通訳の力量に左右される
急にタイ赴任が決まった日本人の方は、タイ語も英語も不得手ということもあるかと思います。一方タイ人も、一般的にはあまり英語が得意ではありませんので、日本語-タイ語の通訳者を雇ってコミュニケーションを橋渡しする企業様は多く見られます。 しかし、タイで優秀な日本語通訳を確保することはなかなか難しい、という声を耳にします。またシステム用語を通訳することに慣れていない通訳者も多いため、特にITプロジェクトにおいては、双方の理解がぼんやりとしたものになりがちです。 これはプロジェクトで実際にあったことですが、通訳者を介してお客様の日本人マネージャーからタイ人へ方針を伝えたところ、誤訳により全く正反対の意図に伝わってしまい、タイ人が非常に当惑し議論が混乱たことがありました(この時は、様子がおかしいことに気づいた当社のタイ人メンバがお客様のタイ人と直接会話して、軌道修正を行いました)。

NG例②:暗黙の了解を前提にコミュニケーションする
私たちは誰でも、育った環境や経験してきた事柄を共有する人たちとの暗黙の了解を前提に、コミュニケーションをしています。例えば日本の職場で典型的な「ほうれんそう」は、そもそも上司が何をほうれんそうして欲しいかを、部下が「暗黙のもとに」察するのが当たり前、という文化から成り立っており、そういった価値観がまだ残っている企業も多いと思います 当然ながらタイの職場でいきなり「ほうれんそう」は期待できないのですが、その際にやってしまいがちな失敗は「HOU-REN-SOU」という張り紙を職場に張り出して、同じことをタイ人に求めてしまうことです。そして報告が遅れると「なんで報告しないんだ、次からはきちんと報告しろ」と叱責し、細かい報告をあげすぎると「そんなことまで知らせなくてよい、私は忙しいんだ」とまた叱責し、具体的なルールを説明することなく、日本と同様の暗黙の了解を期待します。 こういったミスコミュニケーションが重なることで、理解不能な反応を返してくる日本人に対してタイ人は距離を置くようになってしまい、ITプロジェクトにおいては例えば、ユーザ企業側で決定しなければいけない事項がいつまでも共有されずスケジュールが遅延する、または日本人の意図とは違うシステムが出来上がる、という事態につながります。 根本的な原因は「自分は相手に暗黙の了解を期待している」という事実を、そもそも本人が認識していないことにあるため、そういった人は「タイ人はダメだな」と日々言い続けることになります。仮に英語やタイ語が堪能でも、また優秀な通訳が付いていたとしても、短期的には改善が難しい問題のように見受けられます。

以上、コミュニケーションの難しさばかり述べてしまいましたが、だからこそ、当社はその橋渡し役を担っていきたいと考えています。次回のコラムでは、当社のプロジェクト推進体制についてご紹介したいと思います。

01-03-2021