タイ現地日系企業における、ERPシステム選定の難しさとは(4)
Date : 31-07-2026
ERPベンダー各社の提案の評価選定方法
前回までのコラムでは、ベンダーへ見積を依頼する前に整理しておくべき「あるべきERPシステムの要件」について説明してきました。今回は、その要件をもとに各ERPベンダーから提示された提案内容を、どのような観点で評価・選定すればよいかを考えます。
実際には、ERPベンダー各社の提案内容は大きく異なることが少なくありません。口頭で要件を伝えた場合はもちろん、正式なRFP(提案依頼書)を作成した場合でも、お客様の要件にはベンダーごとの解釈が入り込む余地があります。各ベンダーは、自社の提案スタイルやERP製品の特徴に合う形で要件を理解し、提案書を作成します。その結果、次のような違いが生じます。
- 金額面:ベンダーA社からは想定予算の2~3倍の見積金額が提示される一方で、B社からは予算の半額にも満たない金額が提示されることがあります。金額の差が大きすぎると、どの金額が妥当なのか判断しにくくなります。
- 記載内容面:ベンダーA社は、追加開発が必要な機能の一覧や、プロジェクトで作成する成果物の一覧を詳細に記載している一方で、B社はERP製品の一般的な機能説明にとどまり、個別要件に対する対応方針が明確に書かれていないことがあります。この場合、記載内容の差が見積金額の差とどのように関係しているのか、判断しにくくなります。
実際に、ベンダー7~8社から提案を受けたものの、内容のばらつきが大きすぎたために、お客様が混乱し、評価・選定作業そのものを止めてしまったというケースも耳にしたことがあります。では、このような混乱を防ぐためには、どのような点を事前に整理しておくべきなのでしょうか。
お客様側の責任範囲を明確にする
同じ要件で同じERP製品を導入する場合でも、お客様とベンダーの責任範囲によって、プロジェクト計画は大きく変わります。ベンダーは、プロジェクトを完了させ、必要な利益を確保するために、どの程度のリスクを見込むべきかを考えて見積を作成します。自社が責任を負う範囲が広いほど、そのリスクをカバーするための体制や要員が必要になり、その分がコストとして反映されます。
慎重なベンダーであれば、責任分担が曖昧な部分については、自社が対応する可能性のあるリスクとして見積に含めます。そのため初期提案のコストは高くなりやすいものの、プロジェクト開始後に「要件変更は受け付けません」「ユーザ側のタスクは支援できません」といった認識違いが起き、プロジェクトが停滞するリスクは比較的低いと言えます。ただし、お客様側の体制や経験が十分にあり、ユーザ側タスクを自社で完遂できる場合には、ベンダーが見込んだリスク分のコストが過剰になる可能性もあります。
一方で、受注を優先するベンダーの場合、リスクの見込みを最小限に抑え、価格競争力を高めようとすることがあります。その場合、コスト上昇につながる要素、例えばお客様の要件にERP製品が十分に合わず追加開発が必要になる可能性や、ユーザ側タスクの支援が見積対象外であることなどが、提案書の中で十分に説明されないことがあります。プロジェクト開始後にこうした認識違いが明らかになると、すでに一定のコストや労力を投じているお客様にとって、途中での見直しややり直しは非常に難しくなります。
したがって、ベンダーの見積金額をお客様側の体制や経験に合った適正な範囲に収め、プロジェクト開始後の認識違いを防ぐためには、お客様自身が担える責任範囲、すなわちユーザ側の体制と役割を、事前にベンダーへ明確に伝えることが重要です。
一方で、システム導入プロジェクトの経験が少ない場合、プロジェクトの中でどのようなタスクが発生するのか、具体的にイメージしにくいことも多いと思います。次回のコラムでは、代表的なユーザ側タスクと、それを実行するために必要な体制・役割について、もう少し詳しく説明します。
"
+ NS Solutions" は日鉄ソリューションズ株式会社の登録商標です。
その他本文記載の会社名および製品名はそれぞれ各社の商標または登録商標です。