タイ現地日系企業における、ERPシステム選定の難しさとは(3)
Date : 08-07-2026
ベンダーに現状調査を依頼する際の留意点②:日本人のコンサルタントが調査結果を理解し、整理してお客様へ説明できること
前回のコラムに続いて2番目の留意点は、ベンダーの日本人コンサルタントが現状調査に参加しており、タイ人主体でまとめたドキュメント(現状業務フローやその課題)について、分かりやすくお客様の日本人マネジメント層に説明できること、です。
たとえ力量のあるタイ人コンサルタントが丁寧なヒアリングで現状課題を拾ったとしても、一次的な結果は各部門からの五月雨の要望や課題の寄せ集めに近いものになります。これは各業務部門が縦割り組織の意識が強く、スタッフが全社最適化の発想を持てない場合もあるため、ある程度やむを得ないことです。
こういった一次情報を、お客様の日本人マネジメント層の全社的な観点に沿って再構築し、サマリーをご報告差し上げるのが日本人のコンサルタントの役割になります。この役割を日本人営業が担当するベンダーも多いのですが、結局日本人同士での踏み込んだ議論に至らず「詳細はタイ人コンサルが説明します」になってしまい、納得感のない調査結果に終わるリスクが存在します。
したがって前回コラム(タイ人コンサルタントの重要性)の裏返しにはなりますが、日本人のコンサルタントの役割もまた重要になり、ベンダーが日本人・タイ人の「両輪」でのプロジェクト体制を構築できることは、現状調査を成功させるための大きなファクターと言えます。
ベンダーに現状調査を依頼する際の留意点③:「現行踏襲」の発想に陥らないようお客様をリードできること
最後3番目の留意点は「現行踏襲」、つまり今のシステムでできていることは同じように新システムでも実現できなければいけない、という発想から脱却した進め方ができること、です。
現状調査のタスクのひとつとして、現行システムの機能を洗い出すことは確かに必要ですが、「なぜその機能が必要なのか」の観点が無ければその洗い出しにはあまり意味がありません。網羅的に現行機能を洗い出し、同じ画面・帳票、同じ操作手順が新システムでも実現できなければいけないという結論になってしまった場合、おそらく新システムの構築は極めて難しいものになるでしょう。
ERPシステム導入の基本は「Fit to Standard」であると言われます。つまり、ERPがパッケージとして持つ標準機能に自社の業務を可能な限り合わせ、追加開発を最小化する導入手法です。とはいえ自社の競争力を担保したり、大口取引先からの要求に応えたりするための重要なプロセスについては、追加開発をしてでもシステム化を実現する判断はあって然るべきです。ただし、その議論の土台となるべき観点(なぜその機能が必要なのか)が現状調査から抜け落ちて、現行踏襲が前提となってしまった場合、以下のようなリスクが発生します。
- 要件をもとにしたERPベンダー各社からの見積が想定を超える莫大な金額となり、選定プロセスが頓挫する(Fit to Standardが柔軟に適用できない、現行保証が必達のプロジェクトと見なされ、大半の機能が追加開発として見積される)
- 改善点がシステム機能レベル(処理速度や使い勝手の改善など)にとどまり、業務プロセスそのものの見直しなどの抜本的な改善に踏み込めない。そのため、本社側含む経営層からは、費用の割に大きな改善効果がないシステムと評価される
こういったリスクを避けるためには、もちろんベンダー側の力量も大切ですが、一方でお客様側も、マネジメント層から現地スタッフに正しい動機付け・方向付けをしていただくことは非常に重要です。例えば以下のような点が挙げられます。
- マネジメント層から見た自社の現状課題と、その改善のために新ERPシステムに期待すること
- マネジメント層だけでなく、現場のスタッフにとっても新ERPシステムはメリットがあること、その一方で全社最適化の観点で、これまでの業務に固執せず見直す前提で検討に取り組む必要があること
日本のプロジェクトと比較して海外拠点のプロジェクトでは、このような基本的な前提がスタッフに理解されていないケースがより多く見受けられます。つい日本的に暗黙の理解(社員だったらそのくらい分かっているべきだ、など)を求めてしまいますが、海外拠点においては「ロジカルかつシンプル」なマネジメント層からのメッセージは、プロジェクト成功のカギを握る欠かせないファクターであると考えます。
以上ここまで、あるべきERPシステムの要件をまとめるための、現状調査の進め方について述べてきました。次回のコラムでは、現状調査の結果をもとにERPベンダー各社に見積を依頼した後、各社をどのように評価選定するかについて述べてみたいと思います。
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